2004.10.19

『ホエール・トーク』 

『ホエール・トーク』 クリス・クラッチャー原作/金原瑞人、西田登訳 青山出版社

 ワシントンのカッター校に通う混血のT・Jを中心に、人種差別あり、幼児虐待あり、家庭内暴力あり、非行ありの若者たちを描いた物語。辛くて重い現実から目をそらさず、事件の背景や問題児の生い立ちが丁寧に描かれているが、けっして暗くて重いだけの物語ではない。それは、ユーモアの効いたT・Jの語りが、テンポよく進んでいくからだろう。また、T・Jの義理の両親や、一部のしっかりとした大人の生き方がすがすがしく描かれているからにちがいない。

 表面的には、アメリカ社会を強く感じさせる物語だが、おそらく作者の意図するところはもっと深いところにあるだろう。作者のクリス・クラッチャーは、ファミリーセラピストで児童保護活動の専門家。その作者の声が、児童虐待専門の弁護士であるT・Jの養母のことばとして重く響いてくる。

 この作品には、人間のどうしようもない姿が多く描かれているが、障害者やはみ出し者が、アスリートの最高の栄誉であるスタジャンを全力を尽くして獲得するという、一種のスポーツサクセスストーリとして楽しむこともできる。スポーツをとおして次第に成長していく彼らの姿に、作者の思いがこめられているのかもしれない。

 クジラは人間と違って、水の中で自分をそのままさらけだして会話し、全員がそれを理解するという。水の中で自分をとりもどした七人が、本の表紙のくじらになって浮いているのだろうか。『ホエール・トーク』は、辛い現実を扱ってはいるが、読み終わった後に肌のぬくもりを感じさせてくれる作品だ。

2004.03.29

『木曜日に生まれた子ども』 ソーニャ・ハートネット著 金原瑞人訳

「木曜日生まれの子は、さまよう運命にある」マザー・グースの一説どおり、木曜日生まれのティンは、子供のころから家に棲みつくことはなかった。幼い頃、ある事件をきっかけに自分の家の下に穴を掘りはじめ、いつしかそこを自分の居場所にしていった。そんな一風変わった弟ティンと次第に家族がばらばらになっていく様子を姉のハーパーが一人称で綴る。

 オーストラリアのかつては金鉱堀りでにぎわった町にハーパー一家は住んでいた。けっして親の愛情が薄かったわけではない。貧しいながらもそれなりに暮らしていた一家に、次々と災難がふりかかる。大恐慌やきびしい試練の連続。酒におぼれる父、無気力になっていく母、地中にもぐり続けるティン。彼の掘るトンネルはさらに複雑になっていき、いつしか彼は地中から家族を守る存在にまで……。成長したハーパーが当時を振り返りながら、そんな家族の物語を丹念に紡いでいく。そして同時に、七歳から思春期にさしかかる頃までの自分の成長と心境を、その語りににじませる。そのさりげない筆致に、作者ハートネットの才能を感じずにはいられない。

 辛く厳しい現実社会を描きながら、心の安らぎを覚えるのは、地中深く棲みつき、最後には神話になったティンの存在があるからだろうか。その大胆な設定ときびしい現実描写もさることながら、家族や人間をハーパーの視点で素直に浮き彫りにしたところが最大の魅力だろう。YA(ヤングアダルト)の作品であるが、大人が読んでも十分に読み応えがある作品だ。

****************
巷で見つけた英語
****************

Now I would like to tell you about my brother, Tin James Augustin Barnabas Flute, he was, born on a Thursday and so fated to his wanderings, but we called him Tin for short. He wasn't my youngest brother, because it's right to count in Caffy, but I never saw Tin an old man or even a young one, so he stays just a boy in my mind. Tin's bound up in childhood forever, as far as my recollection goes, although the last time I saw him he was wizened and looking ancient as the hills. Memory is eccentric, how it stalls when it wants to.
"Thursday's Child" by Sonya Hartnett

2004.02.18

『ウィロビー・チェースのおおかみ』 ジョーン・エイケン

『ウィロビー・チェースのおおかみ』 ジョーン・エイケン作 冨山房

 著者のジョーン・エイケンは今年の一月に七三歳で亡くなりましたね。お父さんは詩人のコンラッド・エイケンです。ジョーン・エイケンは『ささやき山の秘密』で一九六九年ガーディアン賞を受賞しています。

 『ウィロビー・チェースのおおかみ』の時代背景は十九世紀の終わりごろ、英国のヨークシャーとロンドンが舞台です。YAや大人の読み物ばかり読んでいて、童心に帰るのを忘れていたので、最初はちょっとノリが悪かったのですが、途中から面白くなりました。悪者退治あり、冒険あり、秘密の通路あり、ウイットに富んだ会話ありと、英国を満喫できる児童書です。風景や動物の様子がいきいきと描写されています。

 実際のオオカミも登場しますが、悪巧みをする人間のことも風刺しているようですね。 ひとことで言えば、ボニーとシルビア、それにサイモンの三人の子供が繰り広げる冒険物語。ボニーは金持ちのウィロビー卿の娘。シルビアはボニーのいとこに当たるのですが、小さいときに両親を亡くし、おばといっしょにロンドンに住んでいました。おばの身体が弱ったためにウィロビー卿宅に引き取られることになったのです。こちらはボニーと違ってとても貧乏。そしてウィロビー卿夫妻が船旅にでている間、家庭教師のスライカープ夫人がやってくるのですが、両親の留守中にいろいろな騒動が持ち上がって……。
 三人の子供が力をあわせて悪者退治をするという設定です。

 ちょっと面白かったのは、ボニーは大金持ちの娘なのに、いとこのシルビアはとても貧乏なこと。それにウィロビー卿はとても心の広い人なのに、家庭教師のスライカープ夫人は、彼の親戚なのに意地悪なことです。その辺も意図的なのでしょうかね。
 
****************
巷で見つけた英語
****************
この本の中で、咳がでる風邪には羊と寝るのがいいといってます。それから桜の皮のシロップとポリッジも効果があると。
'There's nought like lying wi' sheep two-three days for a chesty cough,' pronounced Mr Wilderness. 'The breath of sheep has a powerful virtue in it. That and a brew of my cherry-bark syrup with maybe a spoon-ful of honey in it, and a plateful or two of good porridge, will set her to rights better than the grandest doctor in the kingdom.
("The Wolves of Willoughby Chase" by Jpan Aiken)

2004.02.06

"The Stolen"

"The Stolen"  Alex Shearer著 Macmillan Children's Books

 《十二歳の女の子が、ある日突然おばあさんになった!》

 赤毛でソバカスだらけのカーリーは一人っ子。姉妹が欲しくてたまらない。おばあちゃんがいる人も羨ましくて仕方がない。だからきれいなメレディスが転校してきたときは、親友になって欲しいと思ってた。ある日、メレディスを迎えにきたおばあちゃんと話をしてみると、何と信じられない事が……。メレディスは本当は魔女で、おばあちゃんが本物のメレディスだという。魔女に若い身体を盗まれてしまい、こんな老いぼれにさせられてしまったとか……。
 心優しいカーリーは、おばあちゃんを昔の姿に戻してあげようと魔女の呪文を探し出す。そしてメレディスの姿をした魔女に眠り薬を飲ませ、その間に呪文をかけて元通りにしようと試みるが……。

 思わぬ展開にページをめくる手がとまらない。魔女や呪文というファンタジーの要素をベースに、ミステリタッチでストリーが進んでいく。それでいて心に響く言葉があちこちに散りばめられている。
 デートも出産も家族の団欒も経験せずに、女の子がいっぺんに老女になるという発想は、おとぎ話によくあるが、じっくり考えてみると背筋が寒くなる。歳をとるということはどういうことなのか、ファンタジーながら妙にリアリティのある作品だ。

 原題は"The Stolen"。魔女に身体を盗まれるという設定だから察しはつくが、邦訳のタイトルは『13ヶ月と13週と13日と満月の夜』という。どうして「13ヶ月と13週と13日と満月の夜」なのか、この本を読めばなるほどと頷ける。ちょっと長いタイトルだけど、これはこれで結構ぴったりしてる。(読了:2004/01/05)

********************
巷で見つけた英吾
********************

1.old bag  魅力のない女

2.lose one's marble  頭がおかしくなる 分別をなくす

3. Meredith, you should never take anything in this world for granted. Never depend on things remaining as they are for ever. Anything and everything can change.
中略
All we can do is to hope for the best, and to enjoy what we can of the here and now. Not live for the moment, but in the moment. The present is all we can be sure of.
("The Stolen" by Alex Shearer, p,34)

2013年12月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31        
無料ブログはココログ

Lapislazuli内の検索

**


  • copyright(c) LAPISLAZULI  2004 All rights reserved

aa